私たちは喉の声帯を震わせることで声を作り、唇や舌を巧みに動かすことによってことばを話しています。その話しことばをつくることを医学用語では「構音」といいます。「音声障害」とは声を出しにくくなった状態をいいます。例えば、「声帯ポリープ」という病名を聞いたことがありませんか。歌手や保育士など、声をよく使う職業の方に多い「音声障害」です。また、ストレスが原因で急に声が出なくなる「心因性音声障害」や、男性で成長期を過ぎても声変わりが起きない「変声障害」などもあります。
また、正確に発音できないこと、発音が不明瞭であることを「構音障害」といいます。たとえば、舌などに異常がないにもかかわらず、「サ」の音がうまく発音できないなどのケースは子どもによくみられます。また、外科の治療を受けた後や交通事故などにより口が開きにくくなったり、舌の一部が欠けてしまったり、運動麻痺などが生じ、うまく話せなくなるケースもあります。成人で最も多いものは、脳・神経・筋肉の病気などのために、話しにくくなるケースです。
風邪でもないのに、ずっと声が嗄れている。
急に声がでなくなった。
発音が不明瞭になった。
音声障害の検査では口の奥に小さな鏡やカメラのついたファイバースコープという細い管を入れて、声帯を観察します。原因によっては、小児科や耳鼻咽喉科、脳神経外科などの診療を受けることになります。治療では、薬を使った治療や手術のほかに「声の衛生指導」と「リラクゼーションの方法」などの「音声指導」があり、タバコやお酒を控えることや、大きな声で叫ばずに丁寧に話す心掛けなどを指導します。また、深く息を吸う呼吸のしかた、声の大きさや高さの調節の方法を指導し、患者さんがふだんの生活のなかで習慣にできるようにしていきます。言語聴覚士は、患者さんのことばを耳で聞いて構音障害の有無や程度を判定します。小児の構音障害の訓練では、音を正しく聞き分ける訓練や、正しい音の作り方を視覚や触覚、聴覚を通じて学習していきます。成人の構音障害に対しては、口や、唇、舌などの動きをよくするための訓練や、話すスピードを調節する訓練を行います。また、発音が難しい場合は、50音を並べた文字盤、絵を並べたボードなどによる指差しで、コミュニケーションを取る訓練をしていきます。
ほとんどの「音声障害」は、大声を出し続ける、カラオケで長時間歌い続けるといったような行いで、声帯を傷めて生じます。騒々しい場所での会話をさける、マイクを使う、相手に近づいて話す、加湿する、マイクを独り占めしない、タバコを止める、など声の保護に心がけましょう。また、大脳から構音器官に運動指令を伝える神経が何らかの原因によって傷害されると、運動の指令がうまく伝わらず、正しい語音がつくれなくなり、「構音障害」となります。脳や神経を損傷する原因として多いのは、脳卒中です。脳卒中を予防するためには生活習慣に気を付けることが大切です。
音声によるコミュニケーションが取れなくなった人のために、声の替わりになるコミュニケーション手段が考案され利用されてきました。そして、私たちが普段気軽に使っている携帯電話のメールや写真送信機能も使いやすく便利なコミュニケーションツールとして活用されています。タブレットPCなども上手に活用することによって、さらには今後のソフトウェアの開発によって誰でも簡単に使える「代替的コミュニケーション」ツールとして、大きな可能性を秘めています。
話し相手が音声によるコミュニケーションが取りにくい時にはどのような工夫が考えられるでしょうか。例えば、①短く、ゆっくり言ってもらう、②筆談でコミュニケーションをはかる、③携帯電話のメール機能を利用する、④「はい」と「いいえ」で答えられる質問を重ねながら、言いたいことを徐々に絞り込んでいく、⑤五十音表や文字盤を利用するなど、その場で利用できる工夫がたくさんありそうです。一人ひとりの症状に応じたコミュニケーション手段を工夫してコミュニケーションを積極的にはかれるようにサポートをお願いします。
「声が出ない」「かすれた声が戻らない」などの症状がみられた場合は、耳鼻咽喉科を受診しましょう。もし「唾が急に飲み込みにくくなった、お茶を飲むとやたらとむせる」といったような他の症状もみられるようでしたら、迷わず脳神経外科または神経内科を受診してください。 また、「急に呂律が回りにくくなった」「よだれがでる」などの症状がみられた場合も、脳や神経に何らかの傷害が生じた徴候かもしれません。迷わず脳神経外科または神経内科を受診してください。