川畑 武義(かわばた・たけよし)さん
大阪保健医療大学 言語聴覚専攻科(専任教員)
言語聴覚士
拓殖大学卒業。2012年大阪保健医療大学言語聴覚専攻科修了。因島医師会病院、因島医師会 訪問看護ステーションを経て、大阪府にて訪問看護ステーションに勤務。その後、大阪保健医療大学大学院保健医療学研究科修了。同大学で教員として勤務する傍ら訪問看護ステーションで臨床に携わっている。※取材当時
A君との出会い
「弟が生まれた時、私たち家族には未来への光がまだありませんでした。これから先どうしていこうか、そう思った時、私たち家族に一つの光を与えてくださったのが先生でした。今では態度だけではなく言葉でも伝えるようになりました。先生がいたから今の弟がいます。先生に出会えたことに感謝します。」
これは、私が小児の訪問リハビリを頑張って行こうと決心したA君のお姉ちゃんから頂いたお手紙です。
A君は重度心疾患があり感染症のリスクがあるため外出が制限されていたお子さんです。
人工呼吸器をつけ集中治療室で過ごしてきたA君の声をご家族が初めて聞いたのは、生まれてから1年半後でした。当初は声さえ聞けたらいいという思いだったそうですが、成長していくA君を見て、話がしたいという希望が出てきたということでした。
訪問看護師の方からの紹介で私はA君が3歳の時に出会いました。
声は出るけれど言葉は出ない。寝返りがやっとできるようになった頃でした。週1回1時間の訪問リハビリ、人との関わりが少ないA君は私の顔を見るだけで泣き出してしまい、訓練どころか一緒に遊ぶことさえできませんでした。
「遊びたい」と思える環境をつくる
A君とは一緒に「遊ぶ」から始めました。遊びのバリエーションが少ないA君はおもちゃを投げ散らかすことばかりでした。
遊びはことばの基礎作りです。遊びを通してA君のやりたいことをご家族と一緒に探しました。ボーリング大会や的当てゲーム、身体を使って大きな動きも経験していきました。
ある日、A君がおもちゃを持って側に寄ってきてくれました。言葉は発していませんが、それは間違いなく「一緒に遊ぼう」と誘ってくれていました。ご家族と一緒に取り組んだ、遊びたいと思える環境作りや子どもの思いを聞く姿勢が、A君の伝えたい気持ちを育てたのだと思います。
やりとりの関係ができ、椅子に座って絵カードを使ったことばの練習にも取り組めるようになりました。A君は小学生に上がるときお引越しされましたが、小学校でも様々なことに挑戦されているようです。
家族と暮らす場所で
訪問リハビリでは、医療的ケア(人工呼吸器管理、胃ろう、吸引など)が必要なお子さんも多く、職種間や他機関との連携、リスク管理は病院や施設と同様に重要なことです。訪問リハビリに携わる言語聴覚士は、リスク管理についてもよく知っておく必要があります。在宅生活を行っていく上でご家族もそういった管理は入念に準備されており、ことばの訓練の環境を整えてくれています。
子どもの現状の発達状態を知り、成長の輝きを引き出すのは言語聴覚士の得意とするところです。訪問リハビリのやりがいであり楽しみは、ご家族と一緒に考え実生活の場で成長を支えていけることだと思っています。子どもたちの「何するの?」にワクワクを届けることができるよう頑張っていきたいです。
STをもっと知りたい方は冊子でも
「言語聴覚士という選択」第3版(製作:大阪保健医療大学 言語聴覚専攻科)
この記事の引用元にもなっているこの冊子は、言語聴覚士という職業を知っていただくために作られました。言語聴覚士という選択。その先に何が見えるのか、ぜひご覧ください。この冊子をお読みになりたい方は、言語聴覚専攻科のイベント(オープンキャンパスなど)にご参加ください。