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[器質性構音障害] 長期にわたり子供の成長に伴走する。

奥村 郁絵(おくむら・いくえ)さん

公立豊岡病院組合立 豊岡病院 言語聴覚士

近畿大学卒業後、大阪保健医療大学言語聴覚専攻科入学。修了後は、公立豊岡病院リハビリテーション技術科に勤務し、小児から成人の方の言語聴覚療法に携わっている。※取材当時

INTRODUCTION

発声発語器官の形態異常によって、発音がうまくできない状態を器質性構音障害といいます。

成人の器質性構音障害は、例えば舌がんに対する外科的治療のような発声発語器官の欠損が原因となって起こります。小児の器質性構音障害の代表的なものは口唇口蓋裂による発音の障害です。いずれにしても、外科的な手術と合わせて、ことばや摂食嚥下の問題への対応が必要です。また、口腔外科を専門とする歯科医、耳鼻咽喉科医、形成外科医、言語聴覚士など多職種の専門家が協力して、チーム医療で継続的に治療を進めて行くことが求められます。

口唇裂や口蓋裂は、口腔や上顎に発生する先天的な形態異常です。まず直面する問題は、ミルクや食べ物を口の中に取り込むことや、上手に飲み込むことができないことです。
リハビリテーションでは、口腔内の形態異常を補う補綴装置を作成し、食べ方の工夫や口の中の感覚に慣れてもらう練習をしていきます。成長とともに「言葉」や「発音」に問題が生じた場合は、それらの練習も行っていきます。

ご飯を食べる準備を整える

A君とは生後数ヶ月の時に初めてお会いしました。口唇口蓋裂のため唇と上顎に裂け目があり、離乳食を食べることが難しい状態でした。
手術を受けるまでの間に、口腔内の裂け目を一時的に閉鎖する補綴装置を作成し、リハビリテーションでは口の中を優しくマッサージして舌や頬をそっと刺激することを続けました。口の中に食物を含む感覚に慣れていくためです。そして、最初はミルクを飲む練習から始め、少しずつ食べる練習を行っていきました。
その後、A君は、唇と上顎の裂を閉じる手術を受け、ご飯もしっかり食べることができるようになり退院されました。

A君との再会と言語療法

A君とは数年後に言葉の練習で再会することになりました。
生まれた頃は食べることが苦手なA君でしたが体はとても大きくなっており、「あの時の赤ちゃんがこんなに大きくなったんだな」と嬉しい気持ちになったことを今でもよく覚えています。

A君はお喋りが大好きで明るく元気な子に育っており、日々の出来事をたくさん話してくれます。しかし、言葉の発音がうまくいかず、自分の言いたいことが他の人に伝わらず困ってしまうことも少なくありませんでした。そのため、まずは吹く・吸う・舐めるといった口を使う遊びを通して、舌や唇の動かし方を練習していき、正しい発音方法の習得を目指しました。飽きずにリハビリテーションを行い、楽しみながら目的とする口の動きを誘導するために、工夫やアイデアを凝らして練習を続けました。
また、練習だけで終わるのではなく、言語聴覚士はご家族や教育機関と連携し、お子さんの周辺環境を整えることも行いました。

伝えたい気持ちに寄り添う

器質性構音障害は、先天的な形態異常の他にも口腔がん術後のように、後天的な原因によって生じる場合もあります。今まで当たり前のように出来ていた「言葉を話すこと」ができず、辛い経験をする方をたくさん見てきました。子供から大人まで年齢に関係なく、言葉で自分の思いを伝えたいという気持ちは誰もが持っている感情です。私が臨床で大切にしていることは、患者様の「伝えたい」という気持ちに寄り添い、話す練習を始める前に、まずは患者様の話を聞くことから始めるようにしています。

そして、この疾患は口腔や咽頭の外科的手術や形態を補う補綴装置の作成など、形成外科・口腔外科・耳鼻科など様々な医師の元でリハビリテーションを進めることになるため、多職種との連携が非常に重要です。多職種が同じ目標に向かってそれぞれの役割を果たすことで、患者様にとってより良い環境を作り上げていくことができます。

日々の臨床でより良いリハビリテーションを考えるやりがいを感じています。今後も「伝えたい」という気持ちに寄り添える言語聴覚士を目指したいと思います。


STをもっと知りたい方は冊子でも

言語聴覚士という仕事第3版

「言語聴覚士という選択」第3版(製作:大阪保健医療大学 言語聴覚専攻科)
この記事の引用元にもなっているこの冊子は、言語聴覚士という職業を知っていただくために作られました。言語聴覚士という選択。その先に何が見えるのか、ぜひご覧ください。この冊子をお読みになりたい方は、言語聴覚専攻科のイベント(オープンキャンパスなど)にご参加ください。

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