柴田 智子(しばた・ともこ)さん
言語聴覚士
大阪教育大学卒業後、教員として働いた後に大阪リハビリテーション専門学校に入学。小児分野での臨床を経て、当センターに勤務。※取材当時
INTRODUCTION
脳の病気やケガが原因で、記憶力や注意力、判断力などの認知機能が低下した状態のことを高次脳機能障害といいます。
私が働く事業所は、この高次脳機能障害の支援拠点機関として当事者及び家族に対する専門相談や、関係機関との支援ネットワークの構築、高次脳機能障害に関する情報発信、支援普及啓発のための研修会などを行っています。また、障害者総合支援法に基づく自立訓練事業所として、障害のある方が地域で自立した生活が送れるよう、医療・福祉の各専門職による様々なプログラムを通して身体機能の維持・向上及び社会生活力の向上に取り組んでいます。
言語聴覚士としての具体的な仕事内容としては、高次脳機能障害のある方が日常生活の中で苦手になったことへの対処方法を身につけられるよう支援したり、失語症のある方が社会生活の中でコミュニケーションをとりやすくできるよう援助したり、他職種と連携してプログラムを実施しています。
40代で脳出血を発症、復職に向けて
今回はAさんとのお話を紹介します。
Aさんは働き盛りの40代で脳出血を発症しある病院に入院されました。治療やリハビリを受け、身体は病前と変わりないまでに回復されましたが、一度にたくさんのことを言われると混乱し、また、自分が思ったように話ができず、自分が自分でないような感じになったとのことでした。
Aさんには注意障害と失語症の後遺症が残ってしまいました。
日常生活は自立して行う事ができるようになりましたが、仕事に戻りたいという希望があったAさんは、退院後もリハビリを受けるため私の働く事業所へ通所を開始されました。
Aさんとはプログラムや面談を通して苦手になったことへの対処方法を一緒に考えていきました。例えば、Aさんは注意障害があるため、考え事をしながら歩いていると道を間違えたり、交差点で信号を見間違えてしまったりすることが度々ありました。街の中にはたくさんの刺激があり、そのなかで必要な情報だけに注意を向けて行動することはAさんにとって難しいことでした。そこで、何かするときはひとつだけに集中して行う、という事を確認しました。
他にも、以前ならば予定はすべて覚えられていたのに、今は忘れていることが増えており悔しい、というお話を伺いました。そこで、メモをとり復唱するという対処方法を練習したところ、「ミスが減ってきた」との嬉しい報告を受けました。
病院とは違い事業所では、他の利用者の方と一緒に集団で取り組むプログラムが多くあります。Aさんは他の方が行っておられる対処方法も参考にしながら、ご自分に合った対処方法を身につけられ、ついには復職を果たされました。
バトンを繋ぐ
Aさんは病院の言語聴覚士に「キャッチボールやバッティングといった基本練習はもう十分されたので、次はマウンドに立って練習試合にチャレンジしてください」と励まされ、私の事業所の利用を開始したと教えてくださいました。
繋いでいただいたバトンを受けとり、お一人おひとりがご希望される生活を実現できるように今後も寄り添っていきたいと思います。
STをもっと知りたい方は冊子でも
「言語聴覚士という選択」第3版(製作:大阪保健医療大学 言語聴覚専攻科)
この記事の引用元にもなっているこの冊子は、言語聴覚士という職業を知っていただくために作られました。言語聴覚士という選択。その先に何が見えるのか、ぜひご覧ください。この冊子をお読みになりたい方は、言語聴覚専攻科のイベント(オープンキャンパスなど)にご参加ください。