ST MAGAZINE メニューを開く

ST MAGAZINE

[失語症 デイサービス]共通の想いと共に 集団の力を通して 「生きていくこと」を支援する。

畑中 愛(はたなか・あい)さん

言語聴覚士

四天王寺国際仏教大学(現: 四天王寺大学)卒。2004 年大阪リハビリテーション専門学校卒業。地域で活躍するST を目指し、介護老人保健施設へ就職。7 年の勤務を経て、2011 年よりデイサービスことばの泉で勤務。※取材当時

求める人の思いに応える

失語症デイサービスは、コミュニケーション障害に特化した通所介護事業所です。全国でもまだ30か所ほどしかない数少ない施設です。私の勤務する事業所は「失語症や構音障害などコミュニケーションが困難になった方が安心して通える場所をりたい」という想いで、先輩STが立ち上げました。急性期の医療を終了したばかりの方、何年も在宅で過ごす中で人とのやりとりを諦めてしまっている方など様々な方が来られます。初めは表情も硬く、不安で一杯の方も多いのですが、集団活動や個別の取り組みなどお仲間と共に参加していくことで、徐々に変化がみられます。「自分の状態をわかってほしい」「できることを増やしたい」という共通の思いが、相互理解、思いの共有、伝達意欲に繋がります。次第にご自身の役割を見出し、できることを再発見し、お仲間のために活動する姿が見えてきます。一人ひとりの可能性を引出し、人と人とをつなぐことはSTの大きな役割です。

発信をしっかり受け止める

「ちょっと(髪、切ったの?)」「ちょっと!(先週来てなかったね!)」など、限られた言葉の発し方を巧みに使い分けて、思いを伝える方がいます。レシート・箸袋・チラシ・携帯で撮った写真、自筆の描画など、あらゆる物を使って情報を伝えようとされる方もいます。その情報を聞きたいと耳を傾け、何とかして聞き出そうとする方もいます。右マヒでの生活の困難を訴える方がいれば、日々の工夫を実践して伝える方も。STはお一人おひとりの発信をしっかりと受け止め、伝達をサポートすると同時に、実践的なコミュニケーションの方法を皆様と共に見つけていきます。狭義の言語訓練だけでなく、身体面・健康面・精神面などトータルに向き合い、人として能動的に生きていくことを支援します。

社会に働きかけるSTに

感動と笑い声の絶えない日々ですが、皆様との関わりの中で、社会に一歩出るにはまだまだハードルが高く、踏み出せない方が多くおられることを実感します。

「○○したいけど、一人じゃ…」

「○○に行きたいけど、言葉が…」

世の中がこうであれば…という声を、皆様と共に発信する。これも地域STの役割であると改めて皆様に教えられています。まずは皆様に関わられる身近な方々に理解と工夫をお伝えし、より生活しやすい環境を作れるよう努めています。

待っている人がいる

STは様々な経験をしているからこそできる職業だと思います。

私には、生後2日目に高熱を出し、その影響で髄膜炎を起こし脳性麻痺となった姉がおり、高次脳機能障害の症状とも向き合い過ごしてきたという経験があります(STを目指すまでは、姉が何故その様なことになっているかも全くわからずにいましたが…)。学生の頃、STになれるのか?と悩んでいた時には「お前を待っている患者さんが必ずいてるんだから頑張れ」と背中を押して下さった先生の言葉と仲間の支えがありました。今こうしてSTとして向き合えることを誇りに思っています。

現職のSTの方、これからSTを目指す方、当事者の方、支援者の方、とにかく沢山の方にこんな場所があるということを知って頂き、待っている方との出会いとお仲間の力がどんどん増えていくことを楽しみにしています。


STをもっと知りたい方は冊子でも

言語聴覚士という仕事第3版

「言語聴覚士という選択」第3版(製作:大阪保健医療大学 言語聴覚専攻科)
この記事の引用元にもなっているこの冊子は、言語聴覚士という職業を知っていただくために作られました。言語聴覚士という選択。その先に何が見えるのか、ぜひご覧ください。この冊子をお読みになりたい方は、言語聴覚専攻科のイベント(オープンキャンパスなど)にご参加ください。

[摂食嚥下障害] 「もう一度食べさせてあげたい」想いにチーム...前の記事へ 一覧へ戻る