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[運動障害性構音障害] 人とのつながりを絶やさない退院後の生活を見据える。

勢力 由子(せいりき・ゆうこ)さん

言語聴覚士

京都外国語大学を卒業後、一般企業に就職。その後、大阪保健医療大学言語聴覚専攻科に入学。卒業後、回復期病院に就職。※取材当時

INTRODUCTION

大脳から口や舌、喉などの発声発語器官に至る経路に損傷があると、運動指令がうまく伝わらず、発声発語器官の動きが悪くなってしまいます。その結果、発音がうまくできなくなる状態を運動障害性構音障害といいます。原因疾患の症状が徐々に悪くなっていく進行性の疾患なのか、脳卒中などによる損傷によるものなのか、疾患の特徴や障害を負った部位によっても発声・発語の症状や対応方法が異なります。

まさか自分が

ある年の暑い夏の日に入院してこられた、60歳代女性のAさん。

入院されるまでは非常に活動的で、人とのつながりも多かったとのこと。毎日のように出かけてはご友人と日が暮れるまで喫茶店でおしゃべりして過ごしたり、カルチャースクールに通ったり、地域のボランティアでイベントに出たりと何事にも興味を持ってチャレンジすることが大好きだったとお聞きしました。
そんなAさんが多発性脳梗塞によって負われた後遺症が、歩行障害と構音障害でした。

もう一度楽しくおしゃべりしたい

Aさんの構音障害は、声が震えたり、声の大きさや話す速度の調節が難しくなったり、話し方が平板になるといった症状が特徴とされる失調性構音障害でした。

Aさんは、入院当初はことばが聞き取りづらいことが多く、リハビリ中に何度も聞き返さないといけないくらいコミュニケーションに問題を抱えておられました。

「また、喫茶店行って、喋りたいけど、ちょっとね……」

「友達とは、もう電話、できないかな」

現状を少しずつ受け入れながらも、当たり前にできていたことが今後はできなくなるだろうということにも思いを巡らせられるようになり、寂しそうにされていました。それでも気丈に毎日のリハビリに取り組んでくださるAさんの一所懸命さに応えたいと思い、私達担当療法士も様々なリハビリを提供しました。
言語療法では、Aさんのことばが相手に少しでも伝わりやすいようにと発話の改善に取り組み、話す速さを調整する練習や発音にアクセントをつける練習を行いました。
また、Aさんの趣味の話題や面白いエピソードをご本人から沢山お伺いして、Aさんに関わるスタッフとも共有し、リハビリ以外の病棟生活でも多くの人と話す機会をどんどん増やしていただけるよう働きかけました。

自分らしい生活を

リハビリも順調に進み、Aさんは歩行器で歩けるようになり、会話も伝わりやすくなっていきました。それと共に、退院後、後遺症とどう向き合って生活していくか……と、Aさんの中で少しずつ具体的なイメージが湧いてこられた様子でした。以前はできないことを寂しがられる発言が多かったのが、

「静かなところだったら、話すことできるかな。友達、家に呼ぶとか」
「○○の△△が美味しいから、テイクアウト、してもらって」

等、今までのように生活していくにはどうすればいいかを前向きに相談してくださるようになりました。そういったアイディアも担当療法士間で共有し、退院までに具体的に練っていくようにしました。

「悔しかった。辛かった。けどここで、みんなと、ここまでやれてよかった」

退院前日のリハビリで、どんな時も笑顔を絶やさなかったAさんが涙を流しながらお礼を言ってくださいました。涙で掠れた声でも、はっきりと力強い声でそう言ってくださったAさんのお気持ちに胸を打たれました。退院後の生活が発症前の通りには行かなくても、少しでも以前の楽しい時間を取り戻せるようにお手伝いすることの大切さを改めて感じた出会いでした。


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言語聴覚士という仕事第3版

「言語聴覚士という選択」第3版(製作:大阪保健医療大学 言語聴覚専攻科)
この記事の引用元にもなっているこの冊子は、言語聴覚士という職業を知っていただくために作られました。言語聴覚士という選択。その先に何が見えるのか、ぜひご覧ください。この冊子をお読みになりたい方は、言語聴覚専攻科のイベント(オープンキャンパスなど)にご参加ください。

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