ST MAGAZINE メニューを開く

ST TEACHERS INTERVIEW

関わるのは
人生のワンステージ。
だからこそ、
小児と成人とを
分けて考えない。

専門領域

子どものコミュニケーション障害/小児摂食嚥下障害

川畑 武義

KAWABATA TAKEYOSHI

私の教えていること

関わるのは
人生のワンステージ。
だからこそ、小児と成人とを
分けて考えない。
01

私は本学専攻科を修了し、臨床で経験を積んだのち、同じく本学の大学院に進学しました。大学院では、語りかけても反応がはっきりしない、または反応はあるけれどその意図が読み取りづらい子どもたちのコミュニケーションを促す、電動車いすの活用方法について研究を行いました。大学では言語発達学を受け持ちます。子どものことばがどのように育つのか、声がことばに、ことばが会話に育つ過程を学ぶ授業となります。言語発達を対象とする学問として様々な仮説や手法論がある中で、それら多様な考え方を整理し、将来に役立つ基礎知識を得てもらえるよう、分かりやすい講義を心がけています。

私の専門領域は小児の言語発達ですが、STとしては、「小児」、「成人」と年齢で区別してはいけないと思っています。発達とは一続きの過程であって、それをどこかで区切るとそこで支援の一貫性が失われてしまいます。その人の成長をトータルで考えることが大事なんです。それぞれの領域で働くSTがこの流れの中のワンステージを受け持つわけですから、学生には全体を見渡せるだけの知識を身に着けてほしいと思いますね。

STとして必要な力とは

思いこみを捨てて、
子どもの力を引き出すこと
02

子どもは自分がやったことにフィードバックが得られると、だんだんと楽しくなって自ら探索するようになります。大学院で研究してきた電動車いすによるリハビリテーションもこの原理を応用したものです。リハビリテーションとは、『より良く』を目指すもので、重症心身障害を抱える方々にとっては、今持っている力をどのように引き出し、どのようにして生きることを楽しむかを考える術であると考えます。実際には、引き出すと言っても簡単ではありません。だからこそ、期待していた反応が得られたときは本当にうれしいですね。重症心身障害の方々も、できることが増えると楽しいに違いないはずで、僕も一緒になってそれを楽しんでいます。障害があると、できないことに焦点が当てられがちです。これは文献で目にした話なんですが、例えば4本脚の椅子の脚が一つ欠けて3本になっても、脚の配置を変えれば安定し、むしろより機能的に活用できる場面があるかもしれない、と。このように固定概念を捨て、世の中を違った角度から眺めることも大切だと思うんです。私の講義を通して、重症心身障害に対する思い込みに一石を投じられればと思っています。

学生のみなさんへ

みなさんと一緒に、
コミュニケーションの可能性を広げたい。
03

話せないからと言ってコミュニケーションが取れないわけではありません。他にもいくらでも方法はあります。また、食べることが出来なくても悲観するだけでなく、楽しいことは他にもたくさんあるはずで、学生の皆さんにはそのような柔軟なものの見方を学んでほしいと思っています。何が楽しいのか、今どんなふうに感じているのかを見つけ出すには、人間の感情や表現の豊かさについてよく考え、患者さんとの関わりの中でそれらを見過ごさない努力が必要となります。誰でも、相手が何を考えているのかなんて中々分かりません。だからこそ、分かったつもりにならずにしっかり理解しようという姿勢を持ち続けることが必要だと思います。

私は学生の皆さんを、コミュニケーションの可能性をともに広げていく将来のパートナーであると思っています。STが一人でできることには限界があります。だからこそ、多くの人々のアイデアや技術を借りてコミュニケーションの幅を広げていくのです。卒業後、STとなったみなさんがそれぞれの領域で専門知識や技術を磨き、一緒に患者さんへの寄り添い方を考えていけることを楽しみにしています。こうしたつながりを持てることも、この大学で学ぶ大きな意義の一つだと思います。

川畑武義先生 [OHSU]
×
和田夏実さん [デザイナー]
ST MAGAZINE『テクノロジーがひらくコミュニケーションのきっかけ』

FROM ST TEACHER MESSAGE

川畑 武義先生

届けたい想い

以前は広島の因島で訪問リハビリテーションに携わっていました。
私が担当していた重症心身障害の子どもを持つご家族が転居されることになり、
お手紙をいただいたことがあります。
『息子が遊んでいる姿が光って見えました』と書かれていました。
できないと思っていたことが、関わり方を変えることでできるように。
それに合わせて家族や周りの人々の“見えかた”も変わっていく。
その変化を共有していけるSTでありたいと思います。

             川畑 武義