私の教えていること
「ことば」や「音」とは、そもそも何か?その問いから考えていきます。 01
担当している科目は、音響学 (聴覚心理学を含む)・言語学・音声学・心理測定法です。いずれも言語聴覚士に必要な専門知識を身につける上で、基礎となる科目です。
音響学では「音とは何か」「なぜ人間は音を理解することができるのか」「なぜ誰が話しても「ア」は「ア」の音に聞こえ、「イ」に聞こえることがないのか」「犯罪捜査で用いられる声紋写真から何が分かるか」といった問題を扱います。臨床現場においては補聴器や人工内耳のセッティング、コンピュータを用いた発声補助機器の改良といった工学的な分野にも関係する学問です。
言語学では「ことばとはそもそも何か」「なぜ人間はどんな人でもことばを獲得できるのか」「ことばを理解するとはどういうことか」「ことばの能力を喪失することがなぜ「障害」といわれるのか」といった問題を考えます。
音声学では、「私たちは「ア」や「イ」の音、またタ行やサ行の音をどのように発音しているのか」「発音を行う時にどのような筋肉を用いているのか」などの問題を扱います。
心理測定法では、目には見えない「ひとのこころ」を科学的に測定する様々な手法について理解を深めていきます。
最初の授業で伝えること
言語学や音響学が、臨床現場と
どのように関わっているかを伝えます。
02
担当する授業で学ぶ内容が、言語聴覚士の仕事にとってどのように関わっているかを、まず話しています。
科目がいずれも基礎分野で、具体的なイメージを持ちにくいものであるため、どういう内容を理解すればよいのか、どこまで理解できれば一旦「ゴール」に辿り着いたと言えるのかという点について、少しでもイメージをつかんで欲しいからです。
また、音響学の最初のほうで、言語聴覚士という仕事に纏わる歴史的なエピソードについても少し話をしています。
この仕事はアメリカやイギリスでは長い歴史を持っており、電話の発明家として有名なグラハム・ベルや様々な障害を克服して立派な社会活動家として活躍したヘレン・ケラーといった誰でも名前を知っている人々とも深く関係しています。こうした人々のエピソードを話すことで、「奇跡の人 (miracle worker, 障害を持った人に奇跡をもたらすために働く人)」と呼ばれるくらい素敵な仕事であることを自覚してもらいたいなと思っています。
学生のみなさんへ
科学的な考えや技術を正しく使え、
研究心のある人を育てます。
03
言語聴覚士の養成校や専攻の学科で、私のように臨床家ではない基礎学問分野の専門家を雇っている教育機関は極めて珍しいのです。これも、基礎分野についてもしっかりと理解し、科学的・原理的に考えることもできる人材を育成したいという本学の教育方針をよく示していると思います。この教育方針をさらに推し進めるために、本学では2年前に大学院も設置し、現場で疑問に感じたことや、なんとか解決したいと思っている症状についてしっかりと研究することができるようになりました。
さらに、本学の卒業生たちで組織される「校友会」を通して、学友や先輩・後輩が一同に集まり、言語聴覚士になってからもしっかりと勉強する場を設けています。卒業後の成長も支えていることは本学の教育方針の最も重要な点の1つと言ってよいでしょう。
言語聴覚士の扱う障害には、まだまだ原因が明らかになっていない症例も多く、臨床現場で自分自身の頭で考えながら仕事をしていかなければなりません。そのための基礎学力を身につけて欲しいと思います。
また、医療の現場では、「直感」もとても大事なのですが、同時に言うまでもなく「科学的なエビデンス」も大切です。ですので、主観的な直感と、客観的な科学的エビデンスを常に比較検討する姿勢を身につけて欲しいと思っています。そこで、授業では、直感と科学的エビデンスが「ズレる」ような例を出し、その「ズレ」がなぜ起こるのかを考えてもらったりしています。
また現代は急速な技術革新の時代ですから、これまで以上に科学技術を深く理解し、それを「正しく」用いる能力も必要となります。そのために、専門の知識や検査技法の裏付けとなる基礎分野の内容を丁寧に教えることで、専門知識をより深く理解し、自分自身で考え、応用する力を身につけてもらえるよう努力しています。