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対象となる障がいと臨床

摂食嚥下障害

食べ物を食べたり飲み込んだりするのが難しくなります。肺炎や窒息の可能性もあり、注意が必要です。
おいしく安全に食べられるよう段階的にリハビリテーションを行います。

食べたいものを
口に運べない、噛めない、
飲み込めない。

私たちは生きるために必要なエネルギーを、食事から摂っています。この「食べる」という行為を、「摂食嚥下(えんげ)」といいます。摂食嚥下とは、食べ物を食べ物として認識し、口に入れて咀嚼し、飲み込み、胃に取り入れるまでの一連の工程を指しています。食道に入るはずの食べ物が誤って気管に入ることを「誤嚥」といいますが、食べ物が肺に入ると、炎症を引き起こし「誤嚥性肺炎」をきたすことがあります。いったん肺炎になると食事が摂れなくなり、体力や嚥下機能を低下させ、また肺炎を引き起こすという悪循環に陥りやすくなります。また、食べ物の硬さや大きさが患者様の咀嚼(そしゃく)や嚥下機能に合わないと窒息を起こしやすく、短時間の呼吸停止でも脳に大きなダメージを与えます。こうしたことが繰り返されると、栄養や水分が十分に取れなくなり、低栄養や脱水をも生じ、命に直結する深刻な問題を引き起こしてしまいます。

例えば、こんなこと/
こんな時ありませんか?

食事中によくむせる。
お茶を飲むとよくむせる。
風邪でもないのによく咳が出る。
睡眠中に咳き込む。
喉に食べ物が詰まっている
ような
異物感を感じる。

患者さんにあった正しい食べ方、
飲み込み方を訓練します。

摂食嚥下のリハビリテーションは「評価・訓練」、「栄養管理」、「全身管理」の3つを並行しながら進めます。言語聴覚士は、「評価・訓練」を担当し、飲み込みの状態を調べる検査やX線、内視鏡等の精密機器を用いた検査の結果から原因などを推測し、患者様に合わせた訓練を行います。訓練方法は、食べることに必要な筋力を食べ物を用いずに鍛え動きを改善する「間接訓練」と、食物を実際に嚥下することで機能を高める「直接訓練」とに大別されます。
「栄養管理」や「全身管理」は、医師や看護師、栄養士等他職種との連携によって行われます。栄養が不足しているときは、チューブを使って胃に栄養や水分を送り込む治療等も行いますが、障害が重度で、訓練の効果が見込めない場合には、嚥下機能の改善や誤嚥防止を目的とした外科手術を選択することもあります。

適度な運動や食生活に注意して、
生活習慣を正しくしましょう。

高血圧や肥満、糖尿などの「生活習慣病」を予防することが最大の予防対策になりますが、年を重ねることによっても全身の筋力が衰え摂食嚥下機能にさまざま変化をもたらします。体操をしたり、ウォーキングをしたり、適度な運動を日常習慣的に取り入れて、全身の筋力を維持していくことが大切です。
特に、喉の筋肉は嚥下にとって重要な筋肉であり、よく笑い、よく食べ、よくしゃべることも大事です。また、腹筋は誤嚥物を排出するときに使う筋肉です。日々の暮らしを見つめ直し、全身の筋力を維持することに努めましょう。

こんな未来も始まっています。

摂食嚥下障害の患者様が誤嚥しにくいように工夫された食事を「嚥下食」といいますが、近年嚥下食はどんどん改良され、食欲をそそるものがたくさん開発されてきました。医療の進歩と食品加工技術の発達によって、摂食嚥下障害の患者様がもっと満足できるような見た目も味も普通の食事とそっくりな嚥下食が普及していくことでしょう。また、嚥下障害への社会の関心が高まることにより、市中のレストランで嚥下食のサービスが普及し、嚥下障害の方が友人や家族と一緒に食事を楽しめるようになる日が近いかもしれません。「口からものを食べる」ということは「生きる楽しみ」であり、「明日の活力」、「人とのコミュニケーション」でもあります。食べるという楽しみを支えること。言語聴覚士の大切な役割の一つです。

周囲の方へ。

摂食嚥下障害があったらまったく口から食べられないということではありません。食事形態や姿勢・体位の工夫、食べ(させ)方の工夫など、誤嚥を防ぐ方法を守りながら食事をすれば安全に食べられる人も多いのです。また、食事を介助する方は、姿勢を低くし、自分の目線を患者様の目線に合わせること。そして、一口の量や、口に運ぶペース、飲み込んだことを確認してから次の一口を差し上げることが大切です。「少量ずつ、ゆっくりと」を意識しながら、誤嚥を防ぐための方法を守って食事していただくことが大切です。

もしかしたらと思ったら...

健康な人でも食事中たまにむせることがあります。たまたま1回むせたからといって、嚥下障害があるとはいいません。歳を重ねるごとに嚥下機能が少しずつ低下していき、食事の時に「むせ」が多くなることもあります。ここからが嚥下障害の始まりだと線を引くのは難しいですが、いつもと違うな、むせが多くなってるかも、と思ったら、「耳鼻咽喉科」や「神経内科」を受診してください。